冬の日
もの凄い寒さです。そして風も凄いです。
ベランダのイルミ用のツリーはごとごとと不気味な音を立て、土台からふわりと浮き上がるように
揺れています。
暗い夜空にどんよりとした雲がかかって、強い風に流されていくのが見えますが、こんな真夜中に
家人を叩き起こして、ツリーを土台から外します。
寝ぼけ眼だった家人もさすがらベランダに出て三秒で我に帰ったようですが、寒さに縮かんだ指の
動きは緩慢で、土台に取り付けたゴム紐は頑強で、なかなか外れません。
私は寝室のカーテンを少しだけ開けて眺めていましたが、別に手伝う事もないしと、そのまま寝ました。
翌朝・・ニュースを見てびっくり。
日本海側のあの雪の多さ。北海道はホワイトアウト。八甲田は雪に埋もれ、秋田の山奥は事情最大の
一日積雪量を記録し、国道に延々と続く長距離トラックの長い列。
夜中のあんなことくらいで、騒いでいてはこういう地域の方々に申し訳ないと話していると、
「いや、昨日寒かったのはボクだけですが。」と家人。
「起こしてあげたのは私じゃない?」
「いや、そうだけど君は指図したら寝てたし、外に出たのはボクだけだし、」
「だから?」
「・・いや」
で、朝の会話は終わりました。冬の寒い朝の寒い会話です。
そしてその後も雪は降りやまず、風は収まらず、それが昨日まで続いていました。
息子は祖母の葬儀が終わり、やれやれというところで、じゃ夜はお寿司にするか・・と
三人で車に乗り込んで、出るとすぐに自宅近くの生活道路で軽自動車の前輪が脱輪している処に
遭遇しました。
家人ももちろん知らぬふりができない人間なので、車を空き地に寄せて降りていきます。
私と息子はすぐに終わるかなととは思っていましたが、帰ってこないので降りていきます。
すると、かなりの年配の男性が運転していたらしいです。前の片側だけなのでそこを
持ち上げたらいけるかなと、判断したようでした。
そこで家人と息子が田圃に降り、落ちた方を持ち上げようとした時、通りかがりの
軽自動車が止まって、するすると窓が居りて
「落ちたん?」
短い茶髪をクルクルに巻きあけだ見るからにヤンママ。助手席には1歳くらいの子が乗って
いました。
「そうみたいですね。」と私が言うと
「うちのツレ、もうすぐ帰るから引き上げてあげようか」と言います。
「そう言ってくれてるけど」と私が伝えると、一瞬家人たちはためらったものの
「いや、これで出なかったらお願いしょうかと言う事に。」
そこでもう一度、家人息子が気合を入れて持ち上げると、シフトをバックにしてアクセル
踏み込んだ車はするすると後退。
やったー
「ありがとう。上手くいったみたい。」と私が言うと、それまでこの寒い中、窓を開けたまま
様子を見ていたヤンママは親指たてて、さっそうと夕闇の中を走り抜けでいきました。
そのカッコいいこと・・
運転者のおじいさんと、助手席の女性は何度もお礼を言ってくれましたが、そのお礼の
言葉も待たず風の中を走り去った、ヤンママに私は拍手を送りたかったです。
その日のお寿司は待ち時間もなく、特に美味しく感じられました。廻る寿司ですけれど・
情けは人のためらず・・こんな小さなことも幸せに感じることができるのは、おじいさんと
ヤンママのおかげです。
クリスマスの前夜、私は素敵なプレゼンを貰った気分になりました。
あっ・・義母の葬儀に紛れて、家人へのクリスマスプレゼント忘れちやった・・
今年は3000円以内でお互いにと決めてあったのですが、もう遅い。
彼ははもう用意していると言っていましたので、仕方ない。私だけ貰っておきましょう。
私は・・私は来年6000円分のプレゼント買います。。。