いい人
雨の最中というのに、わがお師匠さまは顧みず、家人のSOSに応えるべき颯爽と現れました。
じつは、我が家の三階から二階に通じる雨樋が風が吹くとカタカタとうるさく鳴り続けます。
私の寝室はその真下になるので、夜中にその音で目が覚めるなんてことがあります。
原因はその雨樋を止めるビスが外れているか壊れているかなのは判っているのですが、なにしろ
高所なので簡単には直せない。
そんなところに持ってきて、たまたまお隣が外壁の塗り替えをするとご挨拶にこられたのです。
足場を明日から建てますのでと、丁寧なごあいさつと私の大好きなお店の焼き菓子をいただき
それだけでも恐縮なのに、家人は厚かましく「実は・・」と話を切り出しました。
お隣のご主人とは彼が中学生の時から知っています。その頃からお隣同志です。
その足場を利用してうちの雨樋のビスを治したいというお願いでした。
お隣夫人は自らも建設会社に勤務しているので「いいですけど、大丈夫ですか」と
心配してくれました。
そうですよね。昼間は素面とはいえこのジジィに足場に上がれるのかと、誰でも不安です。
「いや、ボクだけじゃなんて〇〇さん(お師匠の名前です)にもお願いしてるんで。」
「あぁ〇〇さんも一緒ですね。それなら安心」と快く承知してくれました。
お師匠・・その筋(怪しい筋ではありませんよ。まっとうな建設関係の筋です)では
仕事ができる(今はリタイアしていますが)というので有名人なのです。
そして今日・・
「〇〇さん来てくれたよー」
「はーい。よろしく」と珈琲豆をセットしたかと思うと
「もう終わった。珈琲でも淹れて」と家人が帰ってきます。
・・・淹れてるわよっ。でもこんなに早く淹れれるわけないじゃん!と叫び出したいのを堪え
「早いわねぇ。」
「うん。来たと思ったらちょっと見ようかって、で、タッタッタと上がったらもう終わってた。」
・・・て、手品かっ!
仕事が早いのは知ってます。よーく知ってますけどね。
お師匠は本当にいい人です。「良い人」でも「善い人」でもなく「いい人」なんです。
まず人の選り分けをしません。
自分たち夫婦がご飯に行く時、ご近所の高齢者を何人か誘っていきます。
免許を返納したりして、なかなか遠出のできないご近所さんの星です。
頼まれ事をしたら、すぐ動く。完璧にやり遂げる。自慢しない。
こんな人・・います?
それでいて、ちょっと人間臭いところもあるのか最大の魅力ですね。
私の前夫は性格上あまり人のことを褒めませんでしたが、その彼が褒めた二人のうちの一人です。
家人に至ってはまるで犬ころが飼い主にじゃれるように信奉しています。
子供達には絶大な人気です。
お師匠の娘に「うちのお父さんロマンチストやからね」と言わしめ
我が家の娘は「スーパーマン」と評します。
娘の子たちにも野外でも火の熾し方、ナイフの使い方、炭火の扱い方などを
教えてくれますから大ファンです。
わが友の夫でもあるお師匠のことを「〇〇ちゃん(友の名です)いい旦那さんもったよね。
幸せだよね。」と家人て話すと
「そうだよね。友達うちで幸せ1.2を争うよね。」と言います。
「誰と?」
「え、もちろんキミとですけど。」
まじまじと家人の顔を見続けました。恥ずかしくないのかっ・・・
知らん顔で私を見返す家人のタフネスぶりに、なんやら感動してしまいました。
私なんだかおかしい・・・(苦笑)