桜の話

2020年04月06日

誰もお花見をしない今年の桜は、なぜか悲壮感を漂わせて特に美しいです。

私が、毎年その夜桜の妖艶を愛でる近所の老木も、ことさらに妖しく優美な姿を見せております。

その桜を、私たち家族は勝手に「うちの桜」と呼んでおりますが、当然それは我が家の持ち物でも

私個人のものでもなく、ある団地の一角に三本の木が個々に張り出しております。

 

場所は言いません。そこは私有地の中から道に張り出しているので、人が増えたら団地のご迷惑に

なりますし、交通妨害にもなります。

私も毎年、楽しんでいますが、基本通りがかりの楽しみに収めています。

車を止めれば堪能できるでしょうが、迷惑になります。

そうやって一時のことで、いやな思いをするくらいなら、我慢しておいた方が来年も気持ちよく

楽しめます。

 

でもどうしても、どうしてもその桜吹雪の下でものを思いたいときは、真夜中のその枝の下まで行きます。

真っ暗な空に張り出したソメイヨシノの薄桃色は、可憐でもあり艶めかしくもあります。

風もないのに、時々さよさよと花びらが舞い散って、それはそれは幽玄の扉を開いてくれます。

 

誰もいない、誰も通らないこの道で、たった一人で、桜の木を見上げていると自分がこの世の者ではない

のではないかとさえ錯覚しそうです。

 

私がこの木の存在を知ってからでも30年とは言いません。

その間、何度か夜中にこうして桜を見に来たことはあります。

 

そして一度だけ、たった一人で一度だけ、声を限りに泣き叫んだ時があります。

遠い日のことですが、私には昨日のように忘れられない日です。

でも、このことは誰にも言わず、語らずと思っていましたのに・・

 

私も、昨今のコロナの毒気に当てられてしまったのかもしれません。。。


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