天下の名園
昨夜、地元の名園の紅葉イルミネーションに行って参りました。
ここは事務所にも近く、行こうと思えばいつでも行けるのですがそこが
凡夫の性、あまりに近すぎて通り過ぎるばかりでした。
それが土曜日の夜になって、友人たちが行ったらしくラインで次々と
その美しい映像をちよっとピントの外れた写メで送ってくるのです。
確かに、美しい・・美しいけどその水面の揺らぎはなに?
松の枝の下のあなははユーレイ? なんて突っ込み処満載の写メが次々と送られて
くるのに、とうとう私の理性はブチ切れました。
これでは天下の名園があまりに可哀想。やはりしっかとこの目で見ておかなくてはと
急遽今夜の拝観を決めたのです。
もうすぐ冬至のこの時期は、日暮れが早くしかもあっという間に太陽が沈んでいきます。
イルミ鑑賞にはぴったり。
17:00前にはもう入口に入園券を求めて列が続いています。
かなた昔、私はこの名園の向かいのおみやげ物店でアルバイトをしておりました。
その時に、何度かピンチヒッターで観光案内をしていたこともありますし、なんといっても
私はここで生まれ、たぶんこの地で死にますから、こことは縁が深いはずと自分では
思っています。
入口の五葉の松も、奥の庭石も、掬月亭と呼ばれる茶室も子供のころから慣れ親しんでいます。
その池にたゆたゆと回遊する錦鯉には幼少のころの僅かなお年玉をどれほど寄付したことでしょう。
この名園はかれこれ400年になるそうですが、紅葉のライトアップはここ10年ほどのことです。
世の中のどこもかしこもイルミがピカピカしはじめて(他所の事は言えませんが・・)
お城や山や渓谷がピカピカしはじめても、ここはなかなかライトアップはされませんでした。
そして満を持しての点灯です。
もとが素晴らしい庭園美なのですから、ライトアップが美しくないはずがありません。
庭に映える紅葉もさることながら、青紅葉が月の見え隠れに応じるようにゆらゆらと
水面に揺れて、その姿をくっきりと映したり、水の底に沈めように揺らめいたりで
そこだけが切り取られた蒔絵の世界のようです。
周りの老若男女もその美しさにうっとりと見惚れたまま足が動かないのです。
そしてこんな時は、誰もそれを急かさないのです。
ここだけに奥ゆかしい古の人の振る舞いが降りてきたようです。
それに引き換え、家人はといえば元を取らねば損だとばかり歩き回り
写メ撮りまくり・・まったくなんたる下世話。
それを散々罵ってふと気が付くと、あれれ・・ここはどこ?
私はだれ?
帰るつもりで先に立ったはずなのに・・・
ニヤニヤと不敵な笑いで挑発する家人。
「昔、観光客案内してたって? それでよくできたよね。
帰り道に迷子になる案内人って、そうは聞いたことがないよね。」
・・・・・・ぐっ、くやしい・・
先天的な方向音痴はこういう時、ぐうの音もでなくなるのです。
「足元が暗いからね。先に行かせてあげるわ。」
精いっぱいの強がりに、家人は慣れたものでへへんと鼻で笑って
「じゃ北庭回って帰ろうよね~」とやっぱり元を取ろうとするのです。
古の神々よ・・この下世話な不心得者に何卒、天誅をお与えくださいませ。
大願成就の暁には、ここからのお礼を捧げ奉ります。。。