長門から足立美術館へ ④
少し早めに宿を出て、まず私たちが向かったのは「稲佐の浜」
ここはご存じの方も多いようですが、全国の神々が出雲にお越しになって、
神無月と呼ばれる11月。神々はこの稲佐の浜に上陸されます。
・・不謹慎ながらちょっと海亀の産卵を想像して笑っちゃいました・・・
白くはないのですが、サラサラの砂浜にすくっと目印のように立つ霊岩。波に
洗われ鍾乳洞のような形をしていますが、上の方には祠があり、お枌が飾られています。
それはそれは見事な景観ですよ。神様たちが三々五々この砂浜に集まって、世間の
噂話しながら出雲の大社までの道を歩いているのかと思えば、なかなかに愉快な風景だと
思いませんか。
この砂を持ち帰り、出雲大社のお社の真後ろにある素鵞の社にある砂と交換すると、
霊験あらたかなものに変わるという言い伝えがあるのだそうです。
家人は何十年か前の甲子園児のように、稲佐の浜の砂をビニール袋に詰めます。
そして厳かに、大社にお参りの後、素鵞の社に向かい、その軒下にある砂箱で入れ替えて
参りました。
ひとりのお願いにしては、ちょっと多い量ですが、ちょうどコロナ禍のこの年の終わりに
近しい人たちにも、厄を払ってよい年が迎えられるように、配るのもいいかな・・なんて
思って少し多い目にいただきました。
もちろん持ち帰って、砂を小瓶に詰め訳、私らしい能書きを添えてお配りいたしました。
みなさんとても喜んでくださって、もうこれだけで私たちの旅も価値があったと
いうものです・・え? なんの価値? ・・・ただの遊びじゃんという声は聞き流して・・
お社の門前で「出雲ぜんざい」をいただきました。
かわいらしいお椀に、甘味を抑えたやわらかい小豆と白と緑の白玉が美味しかったです。
さて次はこれまた家人チョイスの「出雲そば」
昨日のことがありますから、遠いんじゃないわよねぇと疑っていたら市内のはずれ。
「献上そば」と名前のついたちよっと有名店らしいです。
最近は「湯だめそば」といって、蕎麦湯にそばが入って、それに出汁をいれて食べる
熱いそばが人気なのだそうです。流行に弱い家人はすぐに飛びつきますが、私は
こういうことには、先例を外さないようにしています。
もちろん、この店の看板「三色割り込そば」
ここだけの話ですが、一枚家人に分けてあげると、「やっぱりそばは
割りこやな」とつぶやいていましたから、簡単に流行りに乗るものではありません。
お土産もしっかり買い込んで、さて今回の旅のそもそもの目的であった足立美術館に
向かいます。
もともとは、足立美術館に行きたい! から始まった旅です。
とても楽しみにしていました。当館は安来市の外れにあって、足立全康氏が個人で作り
あげた庭園の美しさが自慢の有名美術館です。
私もかつて二度ほど来館の機会がありましたが、一回目はその料金の高さに慄いて、
二回目は当時小学生の息子が「なんなん? 誰の絵なん?」と、つまらなさそうに言うのを聞いて
こんなボンクラに高い入場料払ってまで見せる価値があるのかと、踏みとどまったことがありました。
ようやくの三回目。もう何十年越しの悲願です。
ガラス窓を額縁に、切り取られた庭は確かに美しいです。
小さな額縁にも、広大な額縁にも嵌まる美しさは感じます。
でも・・でも・・・
とても美しいのだけれど、なぜかどこから見ても作り物めいて、なんだか
夏休みの宿題の箱庭や、バージニアファミリーの作り物の庭のような感が
ぬぐえないのです。
誰一人としてそこに人はいない。切りそろえられた松の青枝に狂いはないけれど
ずっと時がたっても成長せず、そのままの姿でそこにあるような、なんだか
とても人工的な匂いが漂ってくるのです。
もちろん、人が手を入れて剪定したり、養生しているのですから、そういう意味では
人工的なのは当たり前なのですが、京都で見られる庭にはある、時の流れや、歴史や
息遣いのような、動きを感じるものがないのです。
皆様が褒めちぎる庭園美を、こんな風に評することに、ちよっと畏れは感じますが
これが私の本性ですから、お許しいただきたい。
横山大観の絵画のコレクションについては、よくぞ集められましたというしかありません。
ただ、これも残念ながら、私の好みではないのです。
私は日本画といえど、伊藤若冲のような激しい表現と衝動を好みますから、ぼんやりとした
色づかいにあまり魅力は感じないのです。
失礼ながら、上村松園、伊藤深水氏の描く美人画にずっと心惹かれました。
それでも、広大な館内は圧巻ではあります。
疲れて館内の喫茶店でcoffeeをいただいていると、私がここに来ていると
知っている友人から「1000円のcoffee飲んでる?」とラインが入りました。
さすがは主婦です。興味の場所が違います。飲みました。そして美味しいので豆を
購入しました。200グラム1000円です。ずっとお得・・・
さて、ここが終わるともう帰宅の途に就きます。
途中、岡山で私たちの大好きなロイヤルホストに立ち寄り夕飯を
済ませるとここからは私の運転で帰ります。
いくら方向音痴度マックスとはいえ、もう大丈夫。
目を瞑っていても・・いやいやそれでは事故りますが、
自宅にはかえりつくはずです。旅行記はここで終わります。。。