カラスと私

2019年10月17日

私たちの仕事は、基本相談者のご都合に合わせることから始まりますので、勤務時間は変則的フレックスとでも
いうべき形態です。要は出勤時間も退勤時間も自分で調整せよということです。自己管理が試される形でもあります。
そんな私の今朝の出勤時に・・

郊外の自宅から自分の車で出社しています。一車線の道路を北上していると、前のほうに黒い塊が四つ、五つ・・
最初はなんだろう? と、思って、近づてみると、それがカラスの姿とわかりました。動物の死骸があるわけでもなく、
塵が散乱しているのでもないのに、道路の真ん中にカラスが四羽、五羽。
しかも、車が近づいているというのに、一羽も動こうとしません。道路を突いたり右往左往しているだけです。
対向車もそれに気づきました。こちらは私が先頭で、対向車のドライバーの顔も確認できる距離に近づいたというのに
彼ら(カラス)は、まだ動きません。突っ込めば飛び去るかもしれませんが、もしも轢いたりしたら後味悪いです。

しかも、カラスです。なんの祟りが待っていることかと思えば、たとえ魔女といえども怯みます。
そして、近づくとわかりましたが、道のほぼ真ん中に一羽のカラスが横倒しになっているのです。
空に浮かんだ足はぴくりとも動きません。他のカラスはその周りを、心配げに(か、どうかは判りませんが)窺っている
ように私には見えました。仕方なく、ぎりぎり手前で車を止める私。対向車も止めました。
通勤時間帯はすぎていますので、そう沢山ではありませんが、それぞれの後ろに2.3台の車が続いて止まります。
後ろの車はたぶん見えてないのでしょうね。短いクラクションが遠慮がちに響きました。

そりゃあそうでしょう。突然に双方の車が止まっちゃったんです。
私と対向車のドライバーは顔を見合わせます。向こうは30代前半のおにーちゃん・・に、見えました。
お互い、どちらが見に行くかを、探り合いますが、ここはもちろん彼でしょう。なんたって、私は魔女なんですから・・
(でたっ! 得意の身勝手論法。都合のいい時だけ女になったり、非力なばあちゃんになる変身魔女め。)←カゲの声
対向車のおにーちゃんは、仕方なくノロノロしと車を降り、センターラインに。
すると、さすがに回りのカラスたちは一斉に飛び上がりました。そして残された倒れたカラスに手をやろうとしたしたその時
死んでいるかと思われたそのカラスがぱっと向きを変え、すくっと立ったかと思うと、おにーちゃんの手をすれすれに空へと
舞い上がったのです。
それは、ある意味、見ていて惚れ惚れとするような美しい姿でした。
おにーちゃんも、反射的にその姿を追っていました。すると、空から汚いビニール袋がひらひらと舞い降りて、おにーちゃんの
頭の上に・・

いつの間にか、過ぎ去っていた周りのカラスのどれかが拾って落としたのか、頭上でカラスが何羽も、あのいやな声で、
ギャアウ、ギャアウと鳴いています。見上げるおにーちゃんの呆然とした顔。
その声が「あほう。あほう。」と聞こえたのか。・・私には、そう聞こえたのでした。
視線を戻したおにーちゃんと私の視線がばちっ。
つい、笑ってしまう。私。
後ろの車のクラクションはやや大きめで響きます。
おにーちゃんは納得できない表情で車に戻って、私はそのまま発進しました。

もう何事もない朝の風景に戻りましたが、この場の目撃者は、明日からもここを通るたび、今朝のことを思い出すでしょう。
日常のささやかなスパイスとして。そしてあのおにーちゃんは、みんなのためにと思って、少なくとも対向車のばあさんの
ために自分がしょうとしたのに、そのばあさんにまで笑われてしまった自分の不運をきっと嘆くでしょうね。
でも、おにーちゃん、あなたは偉かった。他のみんなの車のために、面倒なことをしょうとしたあなたは偉かったよ。
ただ、カラスのいたずらの方が、一枚上手だったということよ。・・え? これってなんの慰めにもなりませんか?

私は、明日も同じ光景に出会ったら、また車を止めて、対向車に目配せしょうかと楽しみです。
でも、あのおにーちゃんはきっと、そのまま突っ込むことでしょう。彼はしばらくの間、人間の年増の女と
カラスは信じないと思います。。。


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