優しい夫
魔女と言えどもお休みはあります。
友人もいます。家族もあります。彼らと共有する時間はとても大切で、毎日がサスペンスドラマのような
日々を送っていると、自分が自分たりえる貴重な時間がそれだと確信を持って言えます。
なんにでも、安らぎと安息は必要です。
その彼らと、ほぼ定例になっているBBQを先日も行いました。今回は、それぞれの子供たちが
文化の日ということで所用が重なり、久々のミドルたちだけの集まりとなりました。
季節柄の芋煮や、信じられないくらい肉の垂れ下がったスペアリブ。焼き芋。黒豆やら小豆だんご。
長い付き合いなので、食べることも喋ることも遠慮なしです。
「聞いてよ。」とH夫。H妻は今年大病を患って、みな心配していましたが、今ではすっかり良くなって
今回ももちろん参加しています。
この夫婦、確かに以前から仲の良いことはこの上なし。しかも夫婦がリスペクトしあっていて、私の他の
友人たちと一緒になると、みながみな「Hさんのご主人偉いよねぇ。あんなに奥さんのこと人前で
褒めるなんて、うらやましい。」と言います。
私たちはまだまだ、そういう世代に生まれているのです。夫はやたら人前で妻を誉めません。
そのH夫の告白です。
「この前の日曜日よ。嫁は早起きやから起きているよね。オレ起きたばっかり。今から歯磨きしょうかって
時よ。」
皆は、うんうんと相槌うちます。このH夫、話がなかなか上手い。
「ねぇ。海鮮丼食べたくない? って言うから、おお。ええよって言うよね。」
そりゃ言うでしょ。頭から、いやだ!なんていう夫は、そもそもこのBBQには参加していません。
「そしたら、じゃ今から境港行こうよ。あそこの海鮮丼、テレビで見たらおいしそうやった。・・と
言うんよ。今から? さかいみなとぉ?・・お、おうよ。って言うわな。」
「で、行ったわけ? それから?」と私。
というのも、ここから鳥取県の境港までは直線距離で300キロくらいはありそうなんです。
「行ったよ。それから急いで着替えて、昼に間に合わんといかんし。」
おおっ~
誰からともなく上がる声。まるで他人事のように微笑むH妻。
「やるねぇ。H夫。そうなんや海鮮丼に境港まで行くんや。」
私を含めた他の女たちが、何を考えたか、それぞれの相手には判ったのでしょう。
不安げな、視線で男たちはアイコンタクトをとっています。
「お父さん、来週は紅葉やね。早起きするけど行くよね。なんたって県内のことやから。」とK妻
「日曜日のモーニングにさっさと動けるよね。喫茶店なんて、境港からしたら隣の家みたいなもんやし。」と私
それぞれの伴侶は、恨めし気にH夫を見つめます。
全く、なんてことを言ってくれたんや。この女どもがこんなおいしい話、黙って見過ごすはずがないやないか!
明らかに目が抗議しています。
「ま、オレも車嫌いやないし。二時間ちょっとやしな。」
なんて言い訳。そんなはずないでしょ。300キロだよ。一発免停だよ。
それからは、二言目には「境港行くよりはねぇ・・」が、女たちの合言葉になりました。
「いいよね。H夫には浮気の心配はないよね。」とT妻
いいえ。そんなことはないのです。
妻を愛していても、浮気をしないということはありません。
ましてや、優しい男。まめな男は女がほっとかないのです。
これ、H妻には言えませんが、そういうものなのです。
浮気は自分からアクションするだけではないのです。そして人は男も女も他人からの
アクションにはとても弱いのです。
くれぐれも、ご用心を・・・・